碧雛蜜柑

登ったり攀ったり遡ったり走ったり滑ったり食ったり

初ボーナスの日にバーのトイレでウンコしてたらフラれた話

もう4年も前になる。
当時、ぼくは2年半付き合っている彼女がいた。
遠距離恋愛で、ぼくは東京、彼女は地元の名古屋だった。
彼女は元々東京の生活にやや憧れている面があったし、ぼくとしても東京に来てもらったほうが何かと都合がよかった。
9月頃、電話していたときに何となしにぼくは彼女に持ちかけてみた。

「来年あたりにさ、同棲しない?」

「うーん……ちょっと考えさせて」

今思うと、話の切り出しからして急だったのだろう。
それから、彼女の反応は段々と薄くなっていった。
数週間後、今度は彼女から急な話があった。

「ちょっとさ、距離を置かない?」

え、すでに350km離れているのに?と思ったが、言わずに堪えた自分を今でも誇らしく思う。
年内に結論を出すから、と言われてそれからお互い連絡を取ることはなくなった。

 

そして今でも忘れない12/15、人生で初めてのボーナス日。(夏は弊社は寸志だった)
その日は定時で上がって同期2人とバーで飲んでいた。ずいぶん仲が良く、プライベートでも何度でも遊ぶ仲だった。
突然、彼女から連絡がきた。

「今日遅くなると思うんだけど、電話出来ない?」

アルコールが入っているがほろ酔い程度だったため、深酒はやめようと思いながらOKと返した。またしばらく飲んでいるとトイレに行きたくなってきた。小じゃない、大だ。そう、ウンコなのだ。
まだそんなに遅い時間ではないが、もしかしたら連絡があるかもしれないとスマホを持ってトイレに入った。
ちなみにそのあたりの事情は飲んでいる最中に同期に話していた。(だからそんなに遅くは飲めないよ、と)

嫌な(?)予感は的中するもので、案の定用を足している最中に彼女から電話が来た。
ちょっと迷ったが、とりあえず電話に出た。

「今、大丈夫?」

えーと……これは、大丈夫なのか?

いきなり電話が来るとは正直思っていなかったので、答えに迷っていると彼女は何かを察したかのように構わず話しだした。

「やっぱ薄々分かっちゃうのかな。……あのね、別れようと思う」

「……そっか」(ブボッ

「これももしかしたら気づいてるかもなんだけど、実は好きな人が出来たの」

「(遠距離で連絡も取ってないのに分かりようがなくない?)そうかなって思った」

「まだ付き合っているとかじゃないんだけど、その人をことを考えたいなって思って」

「……分かった」

「何も言わないんだね」

「俺が何か言って考え変わるなら、言うけど」(プスッ

「責めたり怒ったりしないの?」

「なんで?」

「……最後まで優しいんだね」

「2年半くらいかな。遠距離であまり会えなかったけど、それでも一緒にいてくれてありがとう」

「うん、うん……(泣き始める)」

今ね、ぼくお尻丸出しなんですよ

まさか向こうもトイレにいるとは思わないだろうけど。
そのあといくつかお互いが円満に見えるような、向こうの保身欲を満たすような言葉を交わして電話を切った。
好きな人がいるとまでは思わなかったけど、これだけ時間かかって出た結論なんてたいていマイナス方面だろうなとは思っていたので、今さらどうこう感情的になることはなかった。
ひとまずぼくが最初にしたことは尻を拭き、紙と便を流すことだった。

とは言え2年半付き合っていて、すぐじゃなくても結婚はするんだろうなと思っていたので、結果が予測出来ていても言われれば落ち込むものは落ち込むし、それなりにショックだった。
ちょっと重い空気を纏いながら戻ってきたぼくを同期たちは迎え入れてくれた。

「電話、あったの?」

「うん。別れたよ」

「まあさ、飲めよ」

「うん」

なんていいやつらなんだ、ぼくは弊社に入社して素晴らしい仲間に出会えた、と思いながら杯をあおった。

「ほらなー、別れるって言ったろ?こんだけ長いんだから別れ話に決まってるじゃん」

え?今なんて?

「うあー、まじかー。外れたー」

え、こいつらどっちの電話だったか賭けてたの?

「まあさ、コタちゃん」

「なんだよ」

「これでウンコと一緒に彼女との関係も水に流れたってことだね

お前上手いこと言いたいだけだろ。

 

ちなみにお会計は割り勘だった。