碧雛蜜柑

登ったり攀ったり遡ったり走ったり滑ったり食ったり

山の成長を実感した話

某日の夏、Twitterのフォロワー数人と谷川岳の西黒尾根を登った。

自分は2回目の西黒尾根で、企画者にとっては慣れ親しんだルート。
他フォロワーはみな初めてだったように記憶している。
夏と言っても6月下旬だったが山頂でも2000mに満たない谷川岳は十分に暑く、歩くだけで疲弊した。
初めて行ったときも似たような時期だったが当時の方が楽に感じた。月に1,2回山へ行くかどうかの自分では体力の維持も難しいのかもしれない。
「意外に疲れるなあ」なんて思いながら歳の近いフォロワーさんと会話する。
企画者は他の人たちに花の解説をしたり、残りどれくらいですよと余裕を残しながら楽しそうに歩いている。

山頂に着いて写真を撮っているとき、企画者は「すぐそこに見えているのが白毛門であっちが笠ヶ岳でそっちの方に見えるのが上州武尊山で……」と説明したり、他の登山者ともっと遠くの山を同定しあったりしていた。
自分もいくつか山を登ってきたが、「登った山のルート」なら分かるけれど「見えている山が何か」を強く意識したことがなかった。
目的地となる山は当然ながらその山に登っている最中に見ることは出来ない。
縦走でもなければ登山口に向かう途中か、帰るときに目立つ山なら分かるくらいだ。
山の位置関係もあまり気にしたことがなかったし、山体の特徴を覚えるということも今までなかった。
今、自分が見て分かるのは富士山と天覧山筑波山くらいだろう。
山の上から見える他の山がどこかを特定する楽しみ。
「綺麗な景色だな。おっ、富士山が見える」くらいの自分にとっては軽い衝撃だった。
地図を広げたり日ごろ気にしたりしていなければ、知識0では何も分からない世界のため避けていた。知的好奇心、探求心の欠如。

下山途中、素直に企画者に質問をした。

「どうやったら見てる山が分かったり、花とかいろいろ詳しくなれるんですか」

「山に登り続けてれば、そのうちコタおさんも分かるようになりますよ」

企画者はそう優しく笑った。

 

それから1年と数ヶ月後。
相変わらず自分は山登りを続けていた。頻度も上がり、均せば2週間に1回以上は山へ行くようになっていた。
もっとあちこちの山へ行き、群馬の山もいくつか登っていた。
ある日、登山サークルで西黒尾根ルートからの谷川岳登山を企画した。
日本三大急登という名目だからか事前相談もあり、かなり余裕を持ったスケジュールを立てた。
ゆっくりと登り始め、鎖を登る際の三点支持の説明や、こまめな休憩、谷川岳に関する雑学などを話す。
結果として予定通り、特に問題もなく下山することが出来た。
天神平から下りのロープウェイは貸し切り状態で、向かって左に見えるのが今朝歩いてきた西黒尾根だと説明した。ついでに向かって正面やや左に見えるのが白毛門で、そこからぐるっと稜線を回り谷川岳まで行くのが馬蹄形と呼ばれるルートだと話すと参加者の一人から質問があがった。

「どうしたらそんな風に山のことが分かるようになりますか?」

笑いながら、あの日言われたことと同じことを言った。

「山に登り続けていれば、そのうち分かるようになります」

自分はまだ山を登り始めたばかりで分からないことの方が多いけれど、それでも誰かに教えられるようなことが出来て、それが何かその人の新たなきっかけになればいいな。
もしかしたらあの日、自分の質問に笑みを浮かべたのは彼にも似たような過去があったからなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

で、なんかかっこつけて終わるのもかっこ悪いので当時のツイートを貼っておきますね