碧雛蜜柑

登ったり攀ったり遡ったり走ったり滑ったり食ったり

雪山で紙を忘れて雪でケツを拭いた話

「まーたお前はウンコネタか」と思われそうだけど、どうか許してほしい。
前回はただのぼくの話だったけど、今回はこれから雪山登山をする人のためにもなるはずなので。多分……きっと……おそらく……

過去のウンコネタ

kotatsumuri39.hatenablog.com

 

2019年3月中旬、山の知り合い二人と一緒に赤岳鉱泉というところへ行った。
八ヶ岳、と言えば聞いたことある人も多いだろうか。
そこの中腹にある山小屋のアイスクライミング場へ連れて行ってもらった。

初日は山小屋のすぐ脇にある人工氷壁アイスキャンディで初のアイスクライミングを楽しんだ。
夜は下界顔負けの赤岳鉱泉名物のステーキに舌鼓をうち、その後はテント内がとても寒くて眠れない夜を過ごした。
そのあたりは今回のメインの話じゃないので割愛するが、いずれ「寒くて眠れない」についても書きたいと思う。

 

翌日、天然の氷瀑でアイスクライミングをするため、ぼくらは山の中に入っていった。
一面白銀の世界。気温はよく覚えていないがひとまず氷点下なのは間違いない。そしてぼくは朝とてもお腹が弱い

「あの……トイレいいですか」

「ん、いいよ」

山小屋からも離れた山の中だ。トイレなど当然ない。
どういうことか。野糞だそんなもん
それに関してはノープロブレムだ。いや、野糞がノープロブレムって時点で普通に考えるとやばいんだが

ひとまず巻紙セットを出そうとザックを漁った。

……ん?

ひとまず、巻紙セットを出そうと、ザックを漁った。

…………んん??

「あの……紙テントの中に忘れました

どうしよう。これはとても困った。さりげなく、人生最大級のピンチかもしれない。
なんてことを思っていると、しれっと同行者はぼくに言った。

「雪で拭けば?」

ほーん、雪ね。なるほどね~。確かに確かに……って、は?雪!?

「え、雪……?」

「うん。ぎゅって手で固めて」

「ほんとに?」

「うん」

マジか……。でも確かにそれしか手立てがない。ここから山小屋まで引き返しでもしたら、その間にぼくのお尻が雪崩を起こしそうだ。
意を決した。

「それじゃ……行ってきます」

「はい~」

結構な意を決して喉からひねり出した精いっぱいの「行ってきます」だったが、かなりあっさり返された。くぐった修羅場の数が違う。これが本当のうんぶりストってやつか。ぼくにはまだその道のりは遠い。

ひとまず目につかないところまで歩き、良い感じの斜面に穴を掘った。
気温は氷点下。雪山に行かない人からしたらそもそも氷点下でケツを出すことすらまずしないだろう。というかぼくだってしたくてやってるわけじゃない
とりあえずささっと脱いで用を済ませ「さあ、ここからが本番だぞ」と自分に言い聞かせる。こんなみっともない言い聞かせは人生で初めてかもしれない

紙、もとい雪はそこら中にある。目の前を雪をすくう。とてもさらさらしている。パウダースノーだわーい!
いや、全然嬉しくない。何がわーいだ。さらさらしているということは、固めるのが大変ということだ。
何度もぎゅっと固めてそれっぽく整形する。

すぅ~~~~、はぁ~~~~っ

ええい、ままよっ!

 

んあぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!

 

TOTEMO TSUMETAI☆彡

体験したことのない冷たさだった。
真冬のカバーの無い便座に座る感覚。あれをまず思い出してほしい。ひゃんっ!ってかわいらしくなると思うんだけど、それよりも冷たいものがケツの穴にダイレクトアタックしてくる。
刹那、なぜかぼくは北極海を全裸で泳ぐセイウチやイッカクやホッキョクグマに想いを馳せた。ああ、彼らは本当にたくましいんだな……。
ちなみにさっきも言った通り、ぼくは朝とてもお腹が弱い。
お腹が弱いときの便がどういう状態かなんていうのは想像に難くないと思う。
つまり、あと数回は繰り返さないといけない
ここからが本当の地獄だ……!!

ぎゅっぎゅっ

ぬああああああっ!!

ぎゅっぎゅっ

んおおおっ!!

ぎゅっぎゅっ

つっめてぇ~~!!!

ぎゅっぎゅっ

がっ……!!!

 

こうして闘いは終わったかに思えた。が、実は問題が発生していた。
頑張って固めても、雪がさらさらすぎて拭いている途中で崩れていくのだ。
つまりウォシュレットのような状態にあるわけで、拭いた結果が見えていない。
もうこれ以上しなくても大丈夫なのか、きちんと拭けているのか、最終的なジャッジが出来ない。
もうすでに結構な時間が経っているし、正直寒すぎてこれ以上やりたくないし、ぼくは思考を巡らせた。
ひとまず、ひとまずだがウォシュレット状態ということは仮に拭き残しがあったとして、今ここでパンツを履いてもつくほどではないだろう。パンツに接する程度の面は拭きとれているはず。
仮に、仮にだがついていたとしても今日は下山日。それもすぐ温泉がある。
まして同行者たちは立派な大人たち。これは生理現象だし、何よりこの出来事自体を知っている。うん、大丈夫だ……そうだ、いける!!
今になって思い返すと何がいけるのか全然分からないが、ぼくはパンツを履いた。
こうしてシュレディンガーの拭き残しとなったパンツ内空間を構築したぼくはハードシェルも履いて掘った穴を雪で埋め、二人が待つ場所へと戻った。

 

その後、アイスクライミングをして赤岳鉱泉のテント場まで戻ってきた。
ひとまずぼくが最初にしたことはトイレへ行ってパンツチェックだった。
結果は……セーフ! 殿、セーフにございます!!

こうして闘いの幕は閉じた。
帰宅後、ぼくはツイッターでこうつぶやいた。これは勝利の余韻だ。

 

あたかも全て楽しんだかのようなつぶやき。
だが6分後、冷静に思い返してぼくはつぶやき直した。

 

そう、二度とやりたくない。